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私はその日から【幸】保有者だけと行動をともにした。【幸】を奪うためだ。
しかし【幸】保有者は目敏く鼻が利く。きっと【幸】を奪われるのを恐れているからだ。だからなのだろう。【不幸】保持者を虐げ、傍に寄らせないのは。
そのため私も【幸】を所持しているように振舞わなければならなかった。自分が【不幸】保有者であることを他人に悟られてはいけない。それは自然に身についた自己防衛だったのだろう。【不幸】を所持している私ではあったが、【幸】保持者の経験があったこともあって、【幸】保持者としての仮面は簡単に被ることが出来た。だが、飽くまでもそれは【幸】のフリであり、被った仮面はとても息苦しくて苦痛以外の何者でもなかった。皆が楽しく、おかしいと笑う事象に全く笑えない。
やはり【不幸】保持のままではいけないのだ。
焦りだけが大きくなるものの、何時になっても私は【幸】を奪う術が分からなかった。 【不幸】を保持したままで高校を卒業し、大学も出た。
社会に出ても同じ。【幸】保持者と【不幸】保持者は相容れない。何時も虐げられるのは【不幸】保持者だ。その事実にどうして誰も気が付かないのか。否、気づいているが社会の――世界の秩序のために隠しているのだろうか?
世界中から貧困が無くならないのも、紛争が終わらないのも、【不幸】保持者がいるからだ。地域単位で悲劇が起きるのは【不幸】保持者が一定量集中したからなのかもしれない。
ならば尚のこと。私は【幸】を早く手に入れなくては。
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