奪う者

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 約束の日。私は菜月の家に訪れた。 「モモちゃんいらっしゃい!! あがってー」  満面の笑顔で迎え入れてくれた菜月は幼い頃の面影が余り無く、何となく顔に目を向けられない私は目立ち出した腹に視線を落としていた。  飲み物とちょっとしたお菓子を手土産として渡し、その中から自分の分としてペットボトルのお茶を引き出した。 「何も買ってこなくてよかったのにー。じゃあ、私もコレ貰うね」  菜月はお菓子をテーブルに開いて、数本ある中からオレンジジュースを抜いた。涼しげな銀色のタンブラーに氷を入れて渡されたので、それにお互い手酌で飲み物を移すと「再会に乾杯」と縁を合わせた。  まるで知らない顔なのに、話し方や雰囲気は変わっていない菜月に、私も話が弾む。 「二人目って聞いてたけど、上の子は?」 「今日は母親お休みの日で、旦那と旦那の実家に連れて行ってくれてるんだ」  気の利く優しい夫と母親思いの子ども。ああ、なんて絵に描いたような【幸せ】だろうか。もしも【幸】のランクがあったとしたら、菜月の持っている【幸】はきっと極上なのだろう。  これを私が奪うことが出来るなんて。そう思うと、自然と笑みがこぼれた。もしかすると既に【幸】は私に移って来ているのかも知れない。だって、今、私はこんなにも楽しい。  先ほどトイレに立った菜月のタンブラーに、職場からこっそり持ち出した工業用アルコールを入れた。メタノール99.0%以上の劇物だ。大匙1杯で致死とあったが、私は移し替えてきたトラベル用の化粧水ボトルの中身をたっぷりと注ぎ込んだ。  お菓子はスナックや煎餅の甘辛いものばかりを用意してきた。お陰で菜月はジュースをごくごくと飲んでいる。臭いを気にする間も無く飲み干してくれるだろう。悪阻が治まった頃でよかった。
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