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「もうすぐだよね、予定日」
そう言って、加奈子は春香の腹を摩った。
「うん。来月の22日ってことにはなってるんだけど……どうかな。私も予定日から2週間も遅れて産まれたからね」
加奈子は「無事に産まれるといいね」と言いながら張り出した腹を優しく撫で続ける。その手がぴたりと止まった。
「忘れてた。お土産渡しに来たんだった」
一人呟きながらトートバッグを引き寄せて、中から何やら長方形の包みを取り出すと、テーブルの上に乗せた。
「この間、宮城行ってきたんだ。そのお土産」
「宮城? いいなぁ、独身貴族。自由満喫してるね。開けてみてもいい?」
「どぞどぞ」
手にすると想像よりもずっしりと重い。地酒だろうかと思いながら地味な色合いの包み紙を開く。現れたのは白木の箱。達筆な文字が書かれているが読めず、読む努力もしないで蓋を開けると、箱の中から見上げる切れ長の目に見つめられる。
おちょぼ口。大きな頭。赤で彩られた円柱の体。
「こけし?」
「うん。今、こけし流行ってるらしいよ?」
そう言われてみれば、いつだったか情報番組で取り上げられたのを見たかな、と春香の脳裏に思いだされる。
「売り場のおばちゃんがさ、こけしは安産のお守りになるって言ってたから買ってきたんだ」
「そうなんだ? わざわざありがとう」
春香は上手く笑えたかどうか心配になった。
土産のこけしを箱から出して手に取る。木箱から出しても重い。そして大きい。
そう言えばこけしって――
「産まれるまでちゃんと飾っといてね」
「飾る期間短いじゃん! 雛壇か!」
春香の思考を遮るように加奈子が念を押してきたので、即刻そう突っ込み返すと二人でげらげらと笑った。
幼稚園以来の付き合いである加奈子。二人はずっと一緒だった。何処に行くにも双子のように一緒で、どちらかと言えば神経質で気の小さい春香の方が加奈子に依存していた。
大雑把で後先考えない。空気も読まない。だけど大らかで人好きのする加奈子は春香の親友であり、時には姉、時には妹のような存在だった。何かあれば親よりも先に相談をした。相談と言っても、加奈子はただ話を聞いて、相槌をうってくれる。それだけ。でも、その「それだけ」が春香を肯定し、癒してくれた。春香にとって加奈子は掛け替えのない存在だった。
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