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携帯端末が鳴動して、ふと目を開ける。
壁にかかっている時計を見上げると、30分ほど経過していた。返信を待っている間に眠っていたようだ。
鳴り終わった携帯端末の画面には、メールの着信を知らせるアイコンが閃いている。
メールの送り主は、清子だった。
開いてみると、他愛もない挨拶から始まり、お腹のことを心配する社交辞令的なものだった。春香はすぐに「今、電話してもいい?」と返信した。
「久しぶりだね」
少し間を置いて清子から承諾のメールが届くと、すぐに電話をかけた。春香と同じ言葉を返してくる電話先の清子の声は、少し低い。
「急にごめんね。ちょっとキヨちゃんに訊きたいことがあってさ」
「うん。何?」
不機嫌なわけではなさそうだったので、単刀直入に「子消し」のことを憶えているかと訊いた。
「コケシ?」
突然のことだったので、清子も驚いたのだろう。声が軽く上ずって聞こえた。
「うん。あのさ、小学生の頃、帰り道でお題を出しあってたの、憶えてるかな? あの時、キヨちゃんこけしが怖いって話をしたじゃない?」
少し早口で並べ立てた春香の声に、少しだけ間をおいて「うん」と返ってくる。
「その話。急に思い出しちゃったんだよね……」
そう言ってテーブルの上に包み紙ごと置いたままになっているこけしに目をやる。こけしは赤い口を窄めたままこちらを見て笑っていた。その顔がどうにも怖くて顔を背けさせる。
「何でまた、そんな昔の話を思い出したわけ?」
「その、何と無く……」
言葉を濁したのは、加奈子のお土産にけちをつけているみたいだったからだ。加奈子は清子の友人でもある。春香と違って二人は独身と言うこともあって、今も頻繁に遊んでいると聞いていた。悪く言うわけではないのだが、それでも理由を言うのは憚られた。
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