こけし

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 蹲って握り締めた小さな画面に、雫が弾ける。 「加奈子……」  どのくらいそうしていただろうか。頬を伝った涙の跡が乾く頃、春香は立ち上がった。何度確認しても、加奈子から電話もメールも来ない。  ひとしきり泣いて、少し落ち着いたのか、重い足取りで廊下を戻ると、そっと部屋の様子を伺う。  何の異常もなく、こけしは包装紙が被されたまま床に転がっていた。  異常がなくて当たり前だと自分に言い聞かせると、そろりと部屋に戻る。ソファに座り、加奈子が来た時に淹れた飲みかけの紅茶を一口含んだ。温い液体が軽い酸味と苦味を伴って喉を下りていく。  もう一度加奈子に電話をかけたが、やはり繋がらなかった。  どうして加奈子は連絡を返してこないのだろう。春香は画面を見つめながら、その理由を考える。  携帯の充電が切れているのか。否、それならば、電源が入っていないとアナウンスが流れるだろう。電波も届いているし、充電もあるはずだ。ならば、どこかに置き忘れているのか。まだ気が付いていないのかもしれない。もしくは――敢えて出ないのか。  画面の向こうに包装紙を被ったこけしが見える。清子の「子消し」の話は、加奈子も一緒に聞いたのだ。  これは本当に安産祈願のこけしなのだろうか。  加奈子は私の出産を望んでくれているのだろうか。  結婚してからは随分と疎遠になってしまった。昔は一緒にいることが当たり前だと思っていたのに。  春香は両手で顔を覆い、再び15年前のことを思い返していた。
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