29人が本棚に入れています
本棚に追加
蹲って握り締めた小さな画面に、雫が弾ける。
「加奈子……」
どのくらいそうしていただろうか。頬を伝った涙の跡が乾く頃、春香は立ち上がった。何度確認しても、加奈子から電話もメールも来ない。
ひとしきり泣いて、少し落ち着いたのか、重い足取りで廊下を戻ると、そっと部屋の様子を伺う。
何の異常もなく、こけしは包装紙が被されたまま床に転がっていた。
異常がなくて当たり前だと自分に言い聞かせると、そろりと部屋に戻る。ソファに座り、加奈子が来た時に淹れた飲みかけの紅茶を一口含んだ。温い液体が軽い酸味と苦味を伴って喉を下りていく。
もう一度加奈子に電話をかけたが、やはり繋がらなかった。
どうして加奈子は連絡を返してこないのだろう。春香は画面を見つめながら、その理由を考える。
携帯の充電が切れているのか。否、それならば、電源が入っていないとアナウンスが流れるだろう。電波も届いているし、充電もあるはずだ。ならば、どこかに置き忘れているのか。まだ気が付いていないのかもしれない。もしくは――敢えて出ないのか。
画面の向こうに包装紙を被ったこけしが見える。清子の「子消し」の話は、加奈子も一緒に聞いたのだ。
これは本当に安産祈願のこけしなのだろうか。
加奈子は私の出産を望んでくれているのだろうか。
結婚してからは随分と疎遠になってしまった。昔は一緒にいることが当たり前だと思っていたのに。
春香は両手で顔を覆い、再び15年前のことを思い返していた。
最初のコメントを投稿しよう!