プロローグ

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 巨体の侵略者の言うとおり、人間であれば一溜りも無かっただろう。一撃で、腕は粉々になっていたに違いない。  だが、青年は『人間では無かった』。 ダメージを受けた腕の肉が盛り上がるように蠢く、飛び出した骨が腕の中へと潜っていく。 「化け物だな……」  呟かれた一言に男は歯を食いしばった。 「そうだ、俺は化け物だ」  冷たくなった我が子の体を地面に横たえる。  涙も流せはしない。  身体能力も人間を(はる)かに(しの)いでいる。  それでも、人間として生きることが不可能だなんて思ったことは一度も無かった。確かに力は隠し続けて来た。過去との接触も絶った。村の人間と打ち解ける努力も惜しまなかった。用心棒として村の役にたってきた自負もある。   無事に隠しきれると、育てきれると信じていた。  だが、結果は――。  巨躯の侵略者は男に無慈悲な言葉をかける。 「今度避ければ、あの餓鬼の命も亡くなるぞ」  囁かれた言葉に体が硬直し、避けきれず男の拳を直に腹部に受けた。重い衝撃に体が吹き飛び、民家の壁に激突する。壁に激突した傷は些細なものだったが、 腹部のダメージは深刻だった。撃ち抜かれこそしなかったが、内部の肉が破裂し、内臓が形を維持していない。頭部にこの一撃を受けていたら、間違いなく終わっていた。  砂の上を歩く音、破滅音が徐々に男に近づいた。  子供を連れて逃げるのは簡単だった。力を解放して、侵略者達の手から子供を奪い取り、高い空の果てに逃げればいい。  簡単なことだ。化け物である自分にとっては容易いことだ。  けれども、それをしてはいけないことは分かっていた。連れ去れば追われる。永遠に追われ続ける。その度に自分に向かってくるものを殺し続けていてはきりがない。子供は永遠に人間として生きる術を失うだろう。子供たちを人間として育てあげることは、亡くした妻への誓いでもある。  攻撃を加えようとしていた巨躯の者は次の一撃を躊躇った。それは、青年が足にまとわりついて来たからだ。()いずるような状態で、片足に縋り付く。折ろうと思えば簡単だ。だが、それも耐えなければならない。 「助けて、くれないか」  今にも泣き出しそうな声を青年は絞り出した。  巨漢はしがみついた青年を引きはがそうとはしなかった。 「俺の命はどうなっても、構わない」
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