『KRUMMLAUF』

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「氷花、怪談の捜査に来ているのではないよ」  俺は慶松の嫌味を聞き流し、再度、布団に潜り込む。 「分かっているよ」  これは、怪談ではなく、この木造校舎に記憶が残っている。電磁場により、その記憶が甦るだけだ。  でも、過去の記憶ならば、会話は出来ない筈ではないのか。深く考えずに、過去の何かが残っているとだけにしておこう。  暫くすると、慶松も蒲団に潜ってきた。平然を装っている慶松だが、灯りを消そうとはしない。 「おやすみ、氷花」 「おやすみ」  明るいままではあったが、布団を被って寝てしまおう。  翌朝、目が覚めると、窓を開けてみた。怖いと思って寝たが、朝になると、スッキリとする。夜は、夜だから怖いのだ。  しかし、窓の外は真っ白だった。 「霧?」  慶松も起きてきて、外を確認した。 「すごい、霧だね」  窓を開けていると、部屋の中まで真っ白になりそうだった。慌てて、窓を閉めると、時間を確認する。 「早めに行こう。霧に、午後からの雨では、きついよね」  こんなに、霧が濃いとは知らなかった。  受付に行き清算を済ませると、B組の代金はかなり安かった。A組との差額を聞いてみると、確かに差はあったが、驚く程ではない。A組が普通の宿泊の素泊まり程で、B組はそれにやや加算があるくらいだ。風呂とキッチンを使用したので、かなりお得であった。 「気をつけてね」  朝は、昨晩の男性の妻のような人が来て受付をしていた。話を聞いていたらしく、寺への地図も持たせてくれた。 第七章 月と道に迷って 二  地図の通りに車を走らせると、五分も乗らない内に寺の駐車場に到着した。しかし、駐車場の看板があるが、雑草ばかりの草地であった。車を乗り入れたら出られなくなりそうなので、路上に停めてみる。  無事に駐車場まで戻って来られるのかと、心配しながら歩き出すと、又霧が濃くなってきた。 「この階段を登った先に、寺があるみたいだ」  霧で先が見えない。本来は、この参道を登らなくても、車で寺の境内まで行けたらしい。だが、渡された地図には、所々に×がついていて、木が倒れている、山門が崩壊、岩が崩れ危険などの注意書きがあった。  参道は、かなり長く、ちょっとした登山コースになっていた。俺達も、リュックを背負って挑戦している。 「霧しかないね……」
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