45人が本棚に入れています
本棚に追加
互いに、宝物の発表になってしまった。
屋根の上で会話をしていると、声が星に吸い込まれてゆくようであった。
明日も、慶松旅館の手伝いをする予定であるので、早く眠った方がいい。でも、もう少しだけ、俺は大切な人に囲まれていたい。
「慶松、信哉さんが義兄さんになるのか……」
そこで、慶松は微妙な表情をしていた。
「……いい人ですよね」
信哉は、出来る人ではあるが、間違ってもいい人ではない。
「頑張れ、慶松……」
すると、紳まで屋根の上に座っていた。
「あ、紳さん」
俺が声を掛けると、慶松はばっちり紳を見たが、見なかった事にしていた。真面目な慶松にとっては、見えていても、紳は死んだ祖父なのであろう。
「……見比べると、紳さん、慶松さんとよく似ていますけど」
御調も、見比べているので、紳が見えているらしい。里見も、紳と慶松を見比べていた。
「あの、紳さん。死んだ世界って、どうですか?」
里見は、自分は長くは生きられないと思っている。だから、心配なのであろう。
「うん。時間も空間も無くてね、見失うと何もない。でも、私は幸せだよね、いつも大女将が見えている」
大女将と、紳は今も一緒に生きている。
「彼女はね、凄い美人でね。ちょっと、見ていると眩暈がしそうであった……」
大女将は、今も美人だ。でも、若い頃は更に美人だったろうと、瑠璃子を見ていれば分かる。
「氷花君も美人だよね」
紳は遠くを見ていた。
ここに瑠璃子が居るということは、大女将が慶松旅館にいるのだろう。紳は、慶松旅館を見つめていた。
「紳さん、慶松旅館をお願いします」
やっと見えていると認めたのか、慶松が紳を見つめた。
「それは、そろそろ、君の役目だね」
「もう少し、お願いします」
この時間は永遠ではないと、分かっている。でも、俺も、慶松に恋していたい。
「俺からも、お願いします」
すると、紳が笑っていた。
「氷花君に頼まれると、嫌とは言えないな。君は、彼女に似ていて、泣かせたくない」
では、もう少し、このままで過ごそう。
結構、長い時間、空を見ていたのか、体が冷えてきた。中に戻ろうかとすると、庭に信哉が出てきて、上を見上げていた。星の光で、信哉の表情も見える。
「そんな所に集まっていたのか」
信哉も来ようとしているが、俺達はそろそろ下に降りる。
「俺達は、部屋に戻りますよ」
部屋裏に降りると、信哉が来ていた。
最初のコメントを投稿しよう!