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COLLECTIONS 余(あまり)
『KRUMMLAUF』
第一章 海のある丘
駅前から続くショッピング街を抜け、ビジネス街を正面に見る大通りに、ラーメン屋松吉はある。松吉の隣は、大きな焼き肉店、反対隣はファミリーレストランであった。
飲食店も、固まっているほど人は集まるらしく、昼はどの店も満席になり、更にいつも客が並んで待っていた。
今日のラーメン屋松吉にも、長い列が出来ていた。
「店長、野菜ラーメン四つ」
俺、氷花 護浩(しが まひろ)は、今日は、ラーメン屋松吉を手伝っている。絶え間なく来る客に、一秒でも早くラーメンを出す事が、今日の俺の課題になっている。
厨房には、慶松 士志郎(けいまつ ししろう)が手際よくラーメンを作っていた。ラーメン作りは、スポーツだと言わんばかりに、運動会系のメンバーが厨房をしている。それは、見ていて気持ちのいいもので、最近は常連の女性客も増えた。
「塩ラーメン二つ!」
「はい!塩ラーメン二つ」
厨房で返事をしてくれているのは、慶松と鈴木であった。鈴木は、味にうるさい慶松が厨房を任せる程のバイトで、本当は夜のシフトであったが、俺と同じく臨時で昼のシフトに来ていた。
俺は、とりあえず大企業であるK商事に勤める、企画課の社員なのだが、今日は、兄がやってくる予定で有給を取った。
兄の孝弘は、もうすぐ生まれる子供の名前を俺に披露したいと言ってきた。兄はやや優柔不断であるので、要は一緒に考えて欲しいのであろう。
「氷花、店長って、嫌味を言うなって。いつも通りに呼んでいいよ……」
臨時であっても、ラーメン屋松吉で働いているので、他の店員と同じがいいだろう。
「店長、餃子二つ!」
俺が店長と呼ぶと、慶松が渋い顔をしていた。
「ごめん、有給なのに働いて貰ってしまって……」
「店長!ラーメン三つ」
俺は昼のバイトのメンバーに馴染みがないが、ラーメン屋松吉のオープン当時からのスタッフがいると聞いていた。しかし、そのスタッフが、今日はインフルエンザで休みになった。
すると、他のバイトもインフルエンザで休みになった。こんなに湯気のある場所でも、インフルエンザが流行るというのは不思議だ。しかし、バイトは学生であったので、学校でインフルエンザにかかったのかもしれない。
急遽、三人抜けてしまったので、慶松は家にいた俺を呼んだ。
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