『KRUMMLAUF』

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 ランチの時間を過ぎると、人は少なくなる。二時になると、ラーメン屋松吉は一旦店を閉める。夜に向けて、仕込み直しをするのだ。 「氷花、他のバイトは休憩に入ったよ。機嫌を直してよ」  機嫌が悪いわけではない。店内の掃除を、無言でしているだけだ。  慶松は、山盛りの野菜ラーメンを作ってカウンターに置いた。  俺はカウンターに座ると、自分の箸を出した。 「店長」 「氷花!餃子!」  あまり、慶松をイジメたら悪い。本当に俺は、機嫌が悪いわけでもない。ただ、昼のバイトはいつも、岩崎であったのだ。機嫌が悪いふりをしていないと、泣きそうになるからだ。 「慶松は一緒に食べないのか?」 「食べるよ。俺は、味噌ラーメン」  慶松は、味噌ラーメンをよく食べる。  慶松と二人で、電気を消した店内でラーメンを食べだすと、静けさが身に染みる。  電気を消したのは、電気が付いていると、暖簾を仕舞っていても、客が入ってくるからだ。暗くてもゆっくりと食べたい。 「……岩崎が死んでから、一か月か……」  今も、街路樹の下には花が置かれている。見る度に、心が締め付けられるようで、目を閉じて通過している。  雷の夜に、岩崎は刃物を持った男に遭遇した。その男は、俺や慶松の住む家に向かおうとしていた。そこで、岩崎が呼び止め、口論になった。そのまま揉み合いになり、振り上げた刃物に、落ちた雷は通過した。  岩崎は即死であった。燃えてしまったので、誰なのかも分からない状態であった。  病院で対面しても、誰なのか分からず、岩崎ではないと否定的な気分であった。でも、手を握ると岩崎だった。岩崎の手は、包帯で巻かれていても分かる。大きくて、温かかった手は、今は冷たい。それだけで、俺は涙が止まらなくなっていた。 「岩崎……」  握った手には、沢山の思い出があった。 「俺達を守ろうとしてくれていたよね」  しかし、刃物はパン切り包丁で、殺意はないとされ事故死になった。  事故死と判断した警察に対し、怒りはないのかと聞かれると、怒りはない。むしろ、事故死で良かった。殺されたなどは、岩崎には似合わなかった。 「岩崎の、墓参りに行ってくるか?」  岩崎の実家も知らないが、墓のあるお寺の名前は教えて貰った。それは、宍戸(ししど)からで、どうして知っているのかというと、調べたらしい。  宍戸は、俺が事故死でいいと言っても、岩崎の死を追っていた。
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