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大学生になり、私は一人暮らしになった。
引っ越しの荷をほどき、その晩は出前をとった。お吸い物が付いていたのに、母が言う。
「ねえ、おみそ汁作ってよ」
「えー。普通お母さんが作ってくれるんじゃないの?」
「うちのみそ汁は、あんたの味だもん」
慣れない小さな台所。段ボールから出したばかりの手鍋に出汁パックを入れる。
父と母は離婚した。
私が高校を卒業するのを待っていたのだ。
母も職場の近くに引っ越す。まだ片付けは残っているけれど、春休みの間に二人で出来ることはした。
「この前お母さんも出汁とって作ってみたけど、なにか違うんだよね。隠し味とかあるの?」
「なんだろね。お母さん煮出しすぎなんじゃないの」
他愛ない会話に、急にさみしくなる。
小学生から使っていた机も、沢山集めていたぬいぐるみも、昔好きだったアイドルのグッズも、処分してきた。
母は、私のために翌日分のカレーを作ってから、一人の家に帰っていった。
四年間、母から送られてくる荷物には、毎回味噌が入っていた。特別な味噌ではない。私が使っていた、どこのスーパーでも大抵売っているものだ。
送料の方が高いんじゃ…と毎度思うが、いつも言うタイミングを逃し、箱を開く度に笑ってしまう。
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