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酔いどれ天狗
わたしの四方には石の壁。
床も壁も天井も、無数の石で組み上げられており、
圧倒的な圧力でわたしを押し包んでいる。
光はない。物音ひとつなく、静謐と暗闇だけがあった。
照らす明かりもないのに、何故それが見えるのだろう。
目で見ているのではないのか。映像ではなく、私自身の抽象なのか。
それは長い長い回廊であった。
前も後ろも闇は深く、道行の先は何も見通せない。
そもそも、どちらが前でどちらが後ろなのかもわからない。
石壁に触れてみた。
その感触からは石壁がどれほどの時を刻んだものなのか、わからなかった。
磨耗もせず朽ちてもおらず、かといって新しいとも感じられない。
あえて表現するならば、時が止まってしまっているとでも言えばいいだろうか。
時間の経過が知覚出来ない。ひどくあやふやな感覚。
闇に溶け込みかけているような感触。自分自身の輪郭すら曖昧に思えた。
おぼつかない足取りで回廊を歩む。
わたしを捉えている重力も、どこか頼りなげだ。
どれほど時が流れたのだろう?
わたしはなぜ歩いているのか?
どこへ向っているのか?
わたしは・・・
何かを思い出そうとした時、それは聞こえた。
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