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「バァン!」
肩がすくみ上るほど強烈な音は、全てが崩れていく前兆だった。
「俺は悪くない」
一人、静かな部屋で呟いた。
先ほど喧嘩になり、彼女である柚珠奈が部屋を飛び出していったのだ。
しかし、行き先は大抵予想がついている。どうせ実家にでも帰ったのだろう。
すぐに追いかければ間に合うが、絶対に追いかけない。
意地とかプライドとか、そういうものを捨てても追いかける理由はない。
くだらない質問に「わからない」と答えただけなのに、なぜあそこまで言われなきゃならないのさ。
「腹立つな……」
思い出すほどに苛立って、机を強く叩きつけた。
けれど、あれほど泣きじゃくる柚珠奈を見たのは初めてだった。そもそも喧嘩になったのは今日が初めてだが、明らかにいつもとは違う雰囲気だ。
不安が募る違和感に頭を悩ませていると、とても嫌なことを思い出した。
「あーあ。最悪だ……」
それは今日、柚珠奈の誕生日だということだ。
不機嫌な理由がそれとは断定出来ないが、そうじゃないとも考えにくい。
どうしようもない状況に溜息をつきながら、少ない頭で考えてみるが――
「――うるさいな」
外は、けたたましいサイレン音が鳴り響いている。
余計な気が散って、いいアイディアが浮かんでこない。
結局、絞り出した答えは“明日謝って仲直りしてから沢山お祝いしよう”だった。
プレゼントは何にしようかな?
サプライズよりも今回は、柚珠奈が好きな服を買ってあげよう。
そう思った俺には、喜ぶ顔がハッキリと見えていた。
「よしっ。 これで決まりだな」
自分の背中を押して大丈夫だと言い聞かせる。
時計の針の音が進む度に、徐々に寂しくもなってきた。
「少し言い過ぎたかもな」と思い、電話をかけようとした瞬間――
――いきなり鳴り出した携帯に驚く。
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