過去の過ち

3/4
前へ
/42ページ
次へ
「バァン!」  肩がすくみ上るほど強烈な音は、全てが崩れていく前兆だった。 「俺は悪くない」  一人、静かな部屋で呟いた。  先ほど喧嘩になり、彼女である柚珠奈が部屋を飛び出していったのだ。  しかし、行き先は大抵予想がついている。どうせ実家にでも帰ったのだろう。  すぐに追いかければ間に合うが、絶対に追いかけない。 意地とかプライドとか、そういうものを捨てても追いかける理由はない。  くだらない質問に「わからない」と答えただけなのに、なぜあそこまで言われなきゃならないのさ。 「腹立つな……」  思い出すほどに苛立って、机を強く叩きつけた。  けれど、あれほど泣きじゃくる柚珠奈を見たのは初めてだった。そもそも喧嘩になったのは今日が初めてだが、明らかにいつもとは違う雰囲気だ。  不安が募る違和感に頭を悩ませていると、とても嫌なことを思い出した。 「あーあ。最悪だ……」  それは今日、柚珠奈の誕生日だということだ。  不機嫌な理由がそれとは断定出来ないが、そうじゃないとも考えにくい。  どうしようもない状況に溜息をつきながら、少ない頭で考えてみるが―― 「――うるさいな」  外は、けたたましいサイレン音が鳴り響いている。  余計な気が散って、いいアイディアが浮かんでこない。  結局、絞り出した答えは“明日謝って仲直りしてから沢山お祝いしよう”だった。  プレゼントは何にしようかな?  サプライズよりも今回は、柚珠奈が好きな服を買ってあげよう。  そう思った俺には、喜ぶ顔がハッキリと見えていた。 「よしっ。 これで決まりだな」  自分の背中を押して大丈夫だと言い聞かせる。  時計の針の音が進む度に、徐々に寂しくもなってきた。 「少し言い過ぎたかもな」と思い、電話をかけようとした瞬間――   ――いきなり鳴り出した携帯に驚く。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

230人が本棚に入れています
本棚に追加