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画面には姉貴の文字。
「なんだよ。 こんな時に」
嫌な顔をしながら電話に出た。
「もしもし」
――向こうからの音はガヤガヤと騒がしい。
「おーい。 もしもーし」
――雑音しか聞こえない。
電話を切ろうとした瞬間――
「――もしもし、大変なのよっ!!」
いきなり姉貴が慌てて電話に出る。
「えっ!?なにが?」
「ゆ、ゆ……」
姉貴の次に続く言葉を聞くなり、俺は靴も履かずに勢いよく部屋を飛び出した。
ボロアパートの階段なんか、3段飛ばしで駆け下りた。
「なんでだよっ!」
そう叫びながら、夕焼けに染まった町を無我夢中でひた走る。
荒い息
張り裂けそうな心
近づくサイレン音。
その先には、人だかりが出来ていた。
人混みを掻き分けるように進んでいくと、残酷な風景が目にとまる。
高鳴りだした鼓動は、全身を激しく揺さぶって
涙とともに力無く言葉が漏れ出だした。
「なぁ、嘘だろ……」
全身の力が抜け、硬いアスファルトに膝を打ちつける。
目の前には騒ぐ人たち。
フロントガラスが粉々な、黒い車。
アスファルトに広がる濃い赤の海。
そして、あられもない柚珠奈の姿があった。
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