灼熱、帰路。(一)

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 一歩も退かない姿勢が功を奏したのか、主犯格は「後悔するなよ」と捨て台詞を放って去って行った。それに追随するように取り巻き達も足早に離れていく。数人からの視線を感じたが、いちいち応対してやるほど俺にも余裕がない。主犯格の明るい頭髪が見えなくなるまで、その後ろ姿から目を離さないでいた。  そうしてやっと緊張から解き放たれたとき、目尻から滴るように汗が流れた。涙だと思っていたものはどうやら額から垂れてきた汗が目元に入ってしまっていたものだったらしい。厳密にはそうでなかったとしても、今はそういうことにしておこう。  ぴくり、と令嬢の腕が動いた。それでやっと、彼女の腕を掴む手から力を抜ける。離してやると、数歩後ずさりして距離をとられた。露骨に警戒されている。  まあそうだよな。見ず知らずの男子にいきなり腕を掴まれたりしたら驚くし、助けられたら裏を疑うのが当然の感覚だ。むしろ俺はその感覚を彼女が持ち合わせていたことに少なからず安心していたし、できるならそのまま逃げ去るのが最善だと促してやりたいくらいだった。  令嬢はその大きな瞳で様子を窺っている。俺が何かを喋るのを待っているのかもしれない。彼女はかなり無口な性格をしているようなので、多分俺から話しかけなければ会話が発生することはないだろう。無論俺には楽しく歓談するつもりなんて更々ない。要するにこの状況、先に動いたほうが負け。  なんということだ。  じりじりと肌を焼く日光が焦燥を煽る。さっさとこんな対面は終わらせて、お互い元の生活に戻ろう。俺は魔が差しただけなんだ。助けてやったなんて恩着せがましいことはミジンコほども思っていないから、君も気にせずこの場を去ってくれ。
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