七限、特活。(一)

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 七限の終礼が鳴り、堰を切ったようにクラスが動き出す。清掃が始まって、それぞれの係の箇所に向かっていく。その中でひとり、別のクラスからやってきた女子がいた。人目を引く整った容姿に、長い黒髪。育ちの良さそうな立ち居振る舞い。  いかにも令嬢といった容貌で、目が離せなくなった。彼女はクラスの文化委員に声をかけようとしていた。それに気付いた文化委員は愛想笑いを浮かべて、何かを言った。立ち聞きできる距離ではないから内容はわからない。でも冷遇されているのは確かだった。彼女のしょんぼりとした表情が、遠くからでもわかる。  彼女が教室から出ようとしたとき、三人の女子が行く手を阻んだ。確かうちのクラスメイトだが、名前は覚えていない。顔は何となく見覚えがある程度の彼女らが、他教室からの来訪者に話しかけている。三人の中でもやや背の低い、茶髪セミロングの女子が令嬢に詰め寄る。 無意識に掃除の手が止まって、耳を澄ませていた。喧騒の向こうでやっと聞こえたのは「あとで駐輪場裏に来なさいよ」という言葉。  なんというか、古風だ。女子の間ではこういうのも日常なのだろうか。  呼び出されたその先で何が行われるのか、正直言って興味はない。無関心であることを俺は自覚しているし、許容している。他人がどうなろうが特にどうでもいい。万が一巻き込まれたりしたとしても、俺は無関係ですと言い続けられる。  だから、と言ってはなんだけれど。  停めておいた自転車を取りに行ったところで偶然現場に遭遇したとしても、何の問題もない。
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