灼熱、帰路。(一)

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 今日も今日とて弱者への理不尽は振るわれる。できれば俺の感知しない場所で行われていてほしかった。だが不運にも前とだいたい同じ場所、同じ時間でそれは行われていた。  この茹だるような暑さの中で、コンクリの上に跪かせられる彼女。じっくりと熱せられた灰白色の地表が膝を焼いている。その体勢になるだけでも拷問に違いないのに、彼女は無表情のまま冷ややかな目で主犯の女子を仰ぎ見ている。加害者よりも被害者の正気を疑わずにはいられない。  以前にも思ったが、彼女は到底いじめがいのある人種には見えない。理不尽に屈するどころか無視している。それどころか自分の置かれている状況がわかっていないのではないか。まさかとは思うが、超がつくほどの鈍感なんじゃないか。なんて身勝手に推察しているあたり、すっかり俺も傍観者の立場に収まりつつあった。  中学の頃に学年内でいじめが発覚したときのことを思い出す。全校集会で普段物静かな理科教師が「見ていて止めなかった人たちも同罪ですよ」と淡々と述べていた。あれは生徒に向けての言葉だと思っていたけれど、次年度になって主犯のいたクラスの担任が転勤したのを聞いて妙に納得した。見ない振りをしていたのは大人も同じだったのだ。傍観するという選択肢は、我が身を守れるようで守れない。何らかの形で必ず報復は訪れる。  ああ、余計なことを思い出してしまった。後悔する。    彼女が膝だけでなく両手のひらを地面につけようとしたとき、俺は接近して腕をすんでのところで掴んで制止した。
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