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「そうだ、怜ちょっと来いよ。渡すもんあったんだ」
結城が立ち上がり、成海を連れ出す。
「どうしたんだろ?」
黒川が心配そうに扉を見つめる。
「・・・・・・ナルちゃんちょっと落ち込んじゃったかな」
大地がボソっと言った。
「落ち込んだ? 昔の話を思い出したから?」
「そうじゃないと思う。色々ね、思いに応えられない事もあるから。それを苦に落ち込んじゃったのかも」
「・・・・・・どういう意味?」
「ん~、まあ柊ちゃんは何があってもナルちゃんの側に居てあげて」
ふっと、大地が優しく笑った。
「ヒロ、渡すものって?」
「ん~、別にないよ」
結城がしれっと言う。
「え?」
「どうした?」
結城が優しく成海を抱き寄せ、ポンポンと背中を叩く。
「・・・・・・っなんでもないって」
「バ~カ、分かんだよ。怜の事は顔見りゃ一発で」
「・・・・・・オレそんなひどい顔してた?」
「してた。自己嫌悪でどうしようもない顔してた」
「・・・・・・そんなこと」
「あるでしょ? 何落ち込んでんの?」
結城が耳元で優しく囁いた。
「・・・・・・っ、オレに何が出来るのかなって」
成海が震える声で話し出す。
「うん」
「この前の対象者、俊介から手紙が来たんだ。オレは・・・・・・気持ちに応えてやれない。俊介を傷つけるだけだ」
成海が結城の胸で唇を噛む。
「うん」
結城はただ優しく成海の髪を撫でる。
「それに・・・・・・」
「それに?」
「・・・・・・ううん、オレの振る舞いで誰かを傷つけるのが怖い」
「バカ言うな」
「え・・・・・・?」
「その俊介って奴が、今どんな顔して毎日過ごしてるか知ってるか?」
「ううん」
「俺は残務処理でそいつの身辺を見回りしてたから知ってる」
「元気でやってる?」
「ああ、生命力に満ち溢れてるって、ああいうのを言うんだろうな。毎日やる気に満ち溢れてあれなら最短で政治家になるさ」
「そっか」
「怜に会って、あいつ強くなったんじゃねぇの? 思いが遂げられないからって腐っちまう奴じゃないだろ。信じてやれよ。な?」
結城が諭す様に微笑む。
「・・・・・・うん」
成海が落ち着きを取り戻し、結城にギュッと抱きついた。
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