束の間の休息

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 そして、翌朝。  グッスリと眠る黒川の傍らで、制服姿の成海が立っていた。 「・・・・・・柊斗、ごめんな。行ってきます」  成海が困った様に笑いながら、部屋を出て行った。  昨晩、二週間ぶりに黒川が任務から帰ってきたが、今度は成海が任務へと出掛けることになっていた。静かに玄関を閉めると、学生カバンを手に歩き出した。 「それにしても、学校に潜入かぁ・・・・・・」  着ている制服を眺め、苦笑した。 「大丈夫かな・・・・・・」  高校生に見えるかな、などと要らぬ心配をする成海であった。  今回の任務の対象者は、ある全寮制の男子校に通う代議士の息子である。数日前、ある男が繁華街の片隅で刺されて亡くなった。実力派と名高い議員の秘書をしていた男である。この男はある議員の裏取引を暴こうと調査を重ね、証拠を突き止めたところで何者かに襲われた。そこに、偶然通りかかったのが、今回の対象者であった。男が死ぬ間際に対象者に何かを伝えた。その何かを聞き出し、対象者に危険が及ばない様に善処する。それが、今回の依頼の内容である。 「早いとこ聞き出さないとだな」  成海が足早に歩き出した。  今回の対象者は、高校二年の男子高生。代議士の息子で授業をさぼり、繁華街をうろつく絵に描いた様な放蕩息子。男の死に際に通りかかってから外出禁止となり、うっぷんが溜まっている、と。ふふ、どうするかな。とりあえず話してみるか。カンパニーの方で聞き出そうとしたみたいなんだけど、頑なに話そうとしないって事でオレに回ってきた。でもさ、オレ二十三歳だよ? 高校二年生に見える? まぁ、全寮制らしいから、同室に潜り込んで人となりを見てみるかな。期限は一週間。それまでに聞き出して、彼の身の安全を確保する。政治家ってのは結構汚い手を使うからね、早く手を打たないと危険なんだ。 柊斗、大丈夫かな・・・・・・。昨日落ち込んでたみたいだから、任務だって言えなかったんだよね。そうこう考えていると、成海は潜入先の学校の前に着いていた。 「よし、行くか」
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