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光が消えるのを見届けると、女は愛用の刀を拾いあげる。
「ごめんね。私がもう少し早く来ていれば」
その言葉に、童(わらし)は何度も首を振った。
この世界は混沌から生まれた。地を、天を、生き物を生んで混沌は消えた。しかしその力の片鱗(へんりん)は、今なお地上に澱(おり)のように残っている。その力はまれに凝り固まり、さきほどのような獣を、目に見える力の塊を生み出す。中には岩や樹に宿るものもあった。
そして塊となった力は、生物に影響を及ぼすほど強くなる。その影響が穀物や動物におよび、豊作や多産を呼び起こせばそれは神として崇めたて祭られる。しかし天地創造の力はとても不安定な物で、逆に腐れや滅びをもたらす荒ぶる神になる事もある。社に祭られていた神が急に人を襲うようになることもまれにあった。
恩恵をもたらす和神(にぎがみ)が、人を襲う荒ぶる神になることを『転じる』という。鹿子(かのこ)は都の帝から命を受け、転じてしまった神を清め、和神に戻す『祓(はら)い』の巫女だった。
「さあ、村へ帰ろう。皆待ってる」
山の下に小さく見える村を指差して、巫女は微笑んだ。
鹿子が下りてきた山を後に、なだらかな裾野を扇状に切り開いた形に小さな村はある。
村に入るやいなや、駆け出してきた大人たちに少年はもみくちゃにされてしまった。
「心配したで木依(きよ)。山に入ってから帰ってこんし、狼様みたいな鳴き声したもんだから」
「こんなに汚れて、かわいそうに」
キヨ、というのがこの子の名前らしい。木依が体を洗うため、大人に小川へと連れて行かれたのを見計らって、鹿子は村の者に辛い知らせを告げた。
「一緒だったムラト君はもう…… すみません、間にあわなくて」
「巫女様、いえ、鹿子様、どうもありがとうございました」
現れた長老はじめ、他の村人達に土下座をされて、巫女は顔をそむけた。
村に異変が現われたのは、数ヶ月前だという。
最初は、畑の作物が食べられるだけだった。そのうち、うねや作物にたてた支柱が壊されるようになった。数日前にはつまずくほど深い、爪で掻いた傷跡が畑に残されていて、そこで初めて村の人たちはただの動物ではないと思い始めたそうだ。
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