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そして今日、とうとう死者が出てしまった。鹿子がこの村についたのは今朝の事。無駄な荷物を置くやいなや、すぐ山の神の様子を見に行ったのだが、遅かった。せめて後一日到着が早ければ。仕方がなかったとは言え、口惜しい。
気を取り直して明るい声を出す。
「そうだ、私の連れはどうしてます?」
鹿子はさっき降りて来た山の方を見あげていった。
「さあ、まだお戻りになっていませんが」
長老が心配そうに眉をひそめた。
そのとき村を囲む林の隅でがさりと音がした。
「ほい、今帰ったぞ」
なんとも軽い調子で言って、茂みから出てきたのは背の高い青年だった。
細身だが頑丈そうな体が、若草色に染めた衣に納まっている。猛禽類を思わせる鋭い目をしているが、近寄りがたく無いのは、どこかおもしろがっているような口元のおかげだろう。角髪(みずら)を結ってはいるが、耳もとでひょうたん型に束ねられている髪は傷みのせいではねてしまい少し収まりが悪そうだった。腰の太刀と、胸に下げた勾玉(まがたま)の首飾りがよく似合っていた。
「お帰り殺嘉(せっか)。淘汰(とうた)は?」
「ここに」
殺嘉の後からもう一人、青年が現れた。こちらは薄蒼の衣を着ている。優美な眉と細い目、薄い唇が、女性のように柔和な印象だ。腰の太刀がその印象に不似合いだった。
「二人とも、どんな感じだった」
鹿子の顔がわずかに強ばっている。
殺嘉が大げさに首を振ってみせた。そのおどけた様子とは裏腹に、茶の強い瞳は真剣だった。
「だめだね。完全に鎮守の神様が祟り神に転じちまってる」
ざわざわと村人達が騒めいた。
神と崇められるほどに大きくなった力は恐ろしい。その力が転じた勢いで、他の地霊や小さな神々までも引きずられるようにして転じてしまう。鹿子が倒したような狼も、そうして転じた下級の神の一柱だった。
「さっき山の上の社を見てきたが、神はいなかった。転じてどっかをうろついてる証拠だ」
不安そうな声があがる。
「狼のほかにも、下級の神がいるみたいです」
淘汰が顔を曇らせる。
「そうね。でももう日が暮れる。明日、本格的に山の中を探しましょう。様子見ありがと、殺嘉、淘汰。見付けた下級神は清めてきた?」
力の弱い神ならば巫女でなくても清めるのは簡単だ。剣や弓で凝り固まった力を散らしてあげればいい。そうすれば長い年月をかけ、散った力は再び固まり和神となる。
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