Side A

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 ホリーさんこと堀居さんは、地元FMラジオの人気パーソナリティだ。今回の市内大型店舗でのインストアライブは彼にMCを頼んでいる。 「朝永(ともなが)君、目の下すごいクマだね。顔色も悪いよ」  そのホリーさんに、顔を見るなりひどく心配されてしまったので、ホテルのベッドが合わないらしくてよく眠れない、と適当にごまかした。人脈は広いし面倒見もいい人なんだけど、少々お節介なところがある。 「寝る前にマッサージでも頼んだら少しは楽になりますかね」  もちろん、そんなことをしたところで無駄なことは誰よりも俺自身がよくわかっていた。凝っているのは身体じゃないんだから。適当に話題を逸らすために、思ってもいないことを口にしただけだ。  ところがホリーさんは、いいことを思い付いた、といった顔になった。 「ビジネスホテルで頼むマッサージなんてたかが知れてるだろ。俺、いい奴知ってるから紹介するよ」  無下に断るのも角が立つと思ったし、実際に身体の方も疲れていたので、まあいいか、と好意を受けることにした。  そうしたら、なぜか指定の時間に部屋にやってきたのは、かつて俺がこの街に住んでいた頃のバンド仲間だったというわけだ。 「それにしても、理玖が男とヤれるなんて知らなかったな」  湊がいきなりそんなことを言い出すので、俺は危うく跳び上がりそうになった。     
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