392人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「な、なんの話だいきなり」
確かに俺はゲイだ。が、そのことをはっきりと自覚したのは東京に出てからだ。昔の知り合いにそんな話をしたことは一度もない。ましてやこいつに、自分が男に欲情するなんて話をするはずがなかった。
湊はさっきと同じような、ひとつも嬉しそうに見えない笑顔を作ると、ポケットから名刺を取り出して俺の方に差し出した。
一目見て、俺はぱっと顔をそむけた。見たくない現実がそこに書かれていた。
「二時間コースで聞いてるけど、初回は延長不可だから。早速始める?それともシャワーとかまだ?風呂でやるのもありだけど、ここ普通のビジネスホテルだからバスルーム狭そうだな」
俺は、明らかに性風俗のものとわかる店名と源氏名の入ったその名刺を、手の中でくしゃりと握り潰した。
「最初の質問に答えろ、湊」
こんな物騒な声は久しぶりに出した。
「理玖?」
「どうして、お前が、ここに、いるんだ」
睡眠不足で絶不調の俺の目の前に。しかもかつての友人としてではなく、いかがわしいサービスの提供者として。
湊は、羽織っていたネイビーのニットカーディガンを思わせぶりな仕草で脱いだ。
「理玖。お前、眠れないんだろ」
最初のコメントを投稿しよう!