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Side A
ホテルの部屋のドアを開けると、目の前にあったのは、三年ぶりに見るよく知った顔だった。
長く伸ばして金茶に染められていた髪は、今は真っ黒く、短めに切り揃えられている。服装も見違えるほど大人っぽい。でもこの顔は見間違えようがない。黒目の大きな、切れ上がった目元。つんと尖った鼻に、ちょっと小さめのアヒル口。「コケティッシュ」というカタカナ形容詞の似合う二十代半ばの男なんて、そうはいない。
俺は一瞬、いつもの悪い夢の続きに入り込んだかと思って身体をこわばらせた。
「なんでお前がここにいるんだ」
日比野湊(ひびのみなと)。俺の不眠の原因。
「それはこっちの台詞だ、理玖(りく)」
湊は、薄い身体をドアの隙間から滑り込ませるようにして、出張中の俺のねぐらであるビジネスホテルの室内に入ってきた。
「腕のいいマッサージャーが来るって聞いてたんだが」
こいつがそんな仕事を始めたなんて聞いてない。もっとも、この街を離れてからどんな消息も聞いていないが。
湊は無造作に前髪を掻き上げると、唇を浅く歪めてどこかいびつな笑顔を作った。
「ホリーさん、お前にどんな説明したんだよ」
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