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俺は理玖の顔を両手で挟んで、ぐるりと自分の方に向け直した。
「延長してねえよ」
「へ」
この仕事をやめろ、なんて言いだしたのは理玖のくせに、とおかしくなる。
「二時間を過ぎた時点で、仕事は終わり。今ここにいるのは、個人としての俺」
もう、恋人を演じる時間は終わりだ。
「何をしても、追加料金は発生しないぜ」
唖然としている理玖の首の後ろに腕を回して、強く引き寄せる。
「おい、やめろ。ここでしたら風邪を引く」
「ふうん、何をするつもりだよ」
軽くからかうだけのつもりだったのに、焦ったような声でそんなことを言われたら、期待するだろ。
「……それは今からベッドの中で教えてやる」
怒ったような呆れたような理玖の顔が近づいてくる。そういえば、まだちゃんとしたキスをしてなかったな。
と思った瞬間、俺の唇は理玖に塞がれてしまった。
優しい音が澄んだコードになって、俺の中で一際大きく鳴った。
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