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「おかしなところはないように見えるけれど」
「グラウンドに体育の準備をしている先生がいますよね。先生をこの鏡でうつしてみてください。それで、わかるはずです。何がおかしいのか」
珠城さんは僕の手に鏡を置くと、静かな動作で窓の方へ向けるようにと促す。僕と夏希は何度か向きを変え、位置を変えしながら、先生を映そうと試みる。
「まって、そこで止めて!」
先生をうまくうつせずに四苦八苦している、夏希が声をあげた。グラウンドの中程、白線が引いてある、いや今まさに引かれている。僕はハッとしてグラウンドを見下ろす。先生が陸上競技のための線を引いている。そして、鏡には誰もうつされていなかった。
「なぜこうなってしまったのか、これが何を示すのか、まだ分かりません。けれど、先生に限らずうちの家族も町行く人々もそのほとんどが、この鏡にうつらなくなってしまったのです」
珠城さんはグラウンドを見下ろす。
「申し訳ありません、長く引き留めすぎましたね。もし、心当たりがあるのなら今日はこの辺りにおりますし、なんなら後日でも構いません、連絡をください。
もし、なにか重大な事態が起きているなら、私がなんとかしなくては」
そういった珠城さんの横顔は逆光ではっきりとは見えなかったが、昨日話した男の人の顔を思い出した。あの人もまた、何かしらに気がついていたのだろうか。僕の不眠と何らかの関わりがあるのか、もしかしたら夏希のまわりにも……わからないことばかりだった。
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