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ハスの花が浮かぶ人工の池に白い小さな爪先を浸したまま、マイニャはあお向けに寝転がった。強化ガラスの天井越しに見える空は、『あなたが不安で悲しいからといって、こっちまで付き合う義理はないのです』とばかりに晴れ渡っている。
マイニャは、ガラスの天井に映る自分の姿を、まるで他人みたいにぼんやりと眺めていた。
淡い黄色のワンピースから伸びる手足は、少し細め。体も細めで、胸にジャラジャラかけた金のネックレスに押しつぶされてしまいそうだった。腰まである長い金髪は、扇のように床の上に広がっている。砂岩でできた床は、どんなに召使い達が掃除をしてくれてもいつも細かい砂が残っていて、こんな風に寝転がったら背中が汚れてしまうのはわかっていたけれど、マイニャはどうしてもしばらくこうしてぼんやりしていたかったのだ。水が揺れる微かな音と、ハスの香りに包まれたこの場所で。
天井に映るマイニャの姿に見えない線を引くようにして、黒銀色の宇宙船が文字通り空を貫きながら消えていった。
惑星ミルリク。それがマイニャの住んでいる星だった。地球人が地球から離れ、新しい星やそこに住む人々を発見した『宇宙開拓時代』も終って数百年。昔の金持ちがアパートを建てて住民から金を取るように、今の金持ちは惑星一つを買ってそこに住む者達から税金をもらって暮らしていた。マイニャも、ジェイソという若者が持っている惑星に住んでいる一員だった。
戸口に気配を感じ、そのせいでマイニャの意識はちょっとだけ現実世界に戻ってきた。
「お嬢様。ここにいらっしゃいましたか」
キビキビとした靴音で、静かな雰囲気を蹴散らすようにして、召使のナルドが中庭に入ってきた。
オールバックの銀髪に、赤味の強い肌。きちんとしたスーツを着ている。ただ、額には小指ぐらいの角が生えていた。ナルドは家族に仕送りするため、ミルリクまで出稼ぎに来たコスウェン星人なのだ。
「できるだけ、ここには入らぬように言っていたはずです。館の中で、ここだけ監視カメラがないのですから」
だからこそ、ここが好きなのよ、といいかけた言葉を慌てて飲み込んだ。そんなことを言った日には、またお小言だ。
マイニャは、体を起こした。
「ねえ、ナルド。お父様の居場所はわかりませんの?」
「ええ」
ナルドは、悪魔を思わせる細いシッポを右足にクルッと巻きつけた。コスウェン星の民が困った時にやる仕草だ。
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