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「こんなに探しているのに、三年も見つからないなんて……」
マイニャの父親、ユルナンは、船の技術者をしていた。ところが、『仕事で他の星へ行く』と出て行ったきり、もう三年間も音沙汰がない。父親が行っていそうな仕事関係のところにも連絡はないという。
たくさんいる王族や、燃料会社の商人には比べられないけれど、父は宇宙船の修理工場も持っていて、その気になれば次の代まで遊んで暮らせるだけの貯えを一代で造っていた。誘拐される条件としては十分だけれど、脅迫状の類の物は送られてきていない。ミルリクの警察にも連絡したけれど、手がかりは見つからなかった。
ということは、お父様はまだ仕事をしているのだ。マイニャはそう思い込んでいた。というか、そう思い込もうとしていた。だって、そうじゃないと困るから。
「お父様、手紙の一つも書けない状態なのかしら。いつ帰ってくるのでしょう……」
「お嬢様」
恐る恐る、ナルドが声をかけてきた。ズボンにシワがつくほどきつく、シッポが太ももに巻きつけられている。
「こんなことはあまり言いたくないのですが…… もう少し、会社の方に気を向けてください」
「会社のことは、副社長に任せてあるでしょう? それに、お父様が帰ってきたときに私が経営に口出ししていたら、怒られてしまいますわ」
「もし、もしもですよ。ユルナン様が、あなたのお父様がお戻りにならなかったら、この会社を継ぐのは……」
バシャッと水をかけられて、ナルドは言葉を途中で切った。マイニャは白い手にハスの葉のカケラをつけたまま、ナルドを睨みつけた。緑色の目が涙で潤んでいる。
「出てって!」
でも、お嬢様。ナルドの心の声が、マイニャには聞こえる気がした。
いつまでも、そうやっていらっしゃるわけには行きませんよ。そろそろ、現実をお認めにならなければ。あなたが考えるしかないのですよ。もしも、ユルナン様の身に何かがあったのだとしたら……
「もうしばらく、一人でいたいの」
一つ礼をして、ユルナンは命令に従った。
一人になったマイニャは、湧いてきた涙を手の甲で拭った。大きく溜息をつく。だから、この庭が好きなのだ。こうやって泣いても、誰にもばれたりしないから。
マイニャはまた横になった。
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