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そろそろとマイニャは樽の中に足を入れた。なんだか、棺おけに入ろうとしているみたいだ、と思いながら。
第二章 空飛ぶジュウタンと赤い竜
「よお、ダイキリ。無事、お姫様はゲットして来たかよ」
河のほとりで待っていたのは、派手な姿の男だった。年はダイキリと同じくらい。真っ赤な髪を鶏のように逆立てて、飛行用のゴーグルをしている。派手な髪型の割に、足首まである分厚いローブという地味な格好だ。ベルト代わりの帯に、大きな袋をさげていた。
「もちろんだ。カシ、手を貸してくれ」
ダイキリは岸まで泳ぎ着くと、仲間に樽を渡した。
「なんか、物音しねえな。死んでるんじゃねえだろうな」
カシが樽を開けると、マイニャは目を閉じて丸まっていた。死んでいるどころか、膝に乗っている頬は健康そのもの、というか赤い。おまけに、寝息を立てていた。
「おいおい。並の男より肝っ玉太てえな。のんきに居眠りか」
「たぶん、酔いつぶれてる。この樽、ブーザ酒が入ってたから」
たしかに、木の匂いに混じってツンとアルコールの臭いがした。
「まあ、暗闇の中でシェイクされる恐怖を感じないだけよかったかな。ん? どうしたダイキリ。不機嫌そうだけど」
「金持ちは嫌いだ」
ダイキリはカシに預けていた上着をはおり、人間と変わらない眉をしかめる。
惑星ミルリクは、乾燥していて暑い。酷いときには道端の石で目玉焼きが作れるくらいだ。ダイキリが不機嫌なのは、冷たい水に濡れているせいではないだろう。
「乗り物の維持費より、人を雇う方が金が掛かる。だから乗り物に乗っている者よりも、人間に輿を担がせる方が高貴で偉い。どんな理屈だ」
「まあまあ。金持ち全員が性格悪いとは限らないだろ」
カシは、腰の袋を開ける。
封印されていた精霊でも逃げ出したように、銀色の光が四つ袋から飛び出した。それは、銀色の球だった。大きさは、拳よりも少し大きいくらい。四つの小型UFOは、カシの胸の高さで地面と並行に四角を描くように並んだ。
それぞれのUFOの下には丈夫なフックがついていて、そこには分厚い布の四隅が金具で吊るされている。カシが創った空飛ぶじゅうだんだ。
「さてと。マイニャお嬢さんがこんな不良とお空のデートしてる所を見られたらまずいんで、もうちょっと我慢してもらいましょうか」
パタンと樽のフタを閉め、空飛ぶジュウタンに積み込む。
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