偽りの運命の番

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発情期ともなれば、ろくに動くことも出来なくなってしまうので、どこの会社もオメガと聞くと採用に難色を示すところが多く、運良く採用されても、任される仕事といったものはあまり重要ではない、悪く言えば、いつでも替えのきくような仕事が大半になってしまう。 日常生活においても、毎日必要なピルから発情期用の特効薬まで、保険がきくとはいえ、薬代もなかなかバカにならない。 そして、なんといっても発情期中に放たれるオメガフェロモンに当てられ、突発性発情、いわゆるヒート状態に陥り、理性を保てなくなったアルファに襲われ、望まない妊娠をしてしまう可能性がある。 そんな気苦労の絶えない性である故、家族としての負担も相当なものとなってしまう。 幸弥は高校を卒業して、すぐに父親が工場長を務める工場の作業員として働き始めた。 幸弥としては周りの友達と一緒に大学に通いたいと思っていたが、そのことを両親に相談したところ、あまり良い顔しなかったため諦めた。幸弥も自分自身のオメガ性に後ろめたさを感じていたので、それ以上の我が儘を言う気にはなれなかったのである。 そんな幸弥と時政が初めて出会ったのは、桐生グループ創立五十周年記念に行われた祝賀パーティの席であった。 一八六cmの長身にイタリアブランドのタキシードをサラリと着こなし、深い栗色の髪は丁寧に整えられており、切れ長の目に高く通った鼻梁を持った端整な顔立ちで、文句のつけられない容姿を持った男。     
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