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「別にどうとしたこともないだろう、適当に周りに合わせてればいい」
時政はさっきまでのアルファの女性たちとは違う、ひどく冷淡な態度で幸弥に話している。
「率直に聞こう」
時政は幸弥の耳元へ顔を近づけ、囁くように問いただした。
「お前、オメガだろう?」
幸弥はビクッと首元を震わせて目を見開き、時政の顔を見つめた。
「なっ、何で分かったんですか?」
明らかに動揺した雰囲気の幸弥を尻目に、時政は揶揄うような口調で返事をした。
「俺がお前の運命の番だからさ」
そう、空言を言ってみせた。
艶やかな睫毛が不安に揺れる度に、もっと揶揄って遊んでやりたいといった思いが沸々と湧いてくる。
「この祝賀パーティに参加してるってことは、ウチのグループの社員か? それとも得意先の関係者か?」
「父が桐生グループさんのところの工場長をしています。小さい工場ですけど」
「そうか、お前の名前は?」
「……川上幸弥です」
時政の傲慢な態度に、いきなり運命の番だと言われて、幸弥はひどく動揺してしまい、落ち着きを取り戻していなかったが、咄嗟に名前だけは返事をしてしまっていた。
「川上幸弥か、分かった。近い内に必ず迎えに行くから、それまで待っていろ」
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