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契約の番
祝賀パーティから三日後、幸弥は仕事中だったが父親から呼び出しがあり、仕事を中断して事務所に向かった。
扉を開けて中に入って行くと、相変わらず簡素な事務用デスクが並べられていて、机の上には文房具やら書類やらが雑然とおいてあり、事務の人間が皆一様に整理整頓が下手なのだということを物語っていた。
デスクの列の一番奥に工場長である幸弥の父親のデスクが置かれている。父親はデスクに座って書類の整理をしていたが、幸弥に気付くと手を止めて、幸弥の元へと歩み寄ってきた。
「幸弥、実は本社の副社長から連絡があってな、お前をぜひ花嫁として迎えに入れたいと言われたよ」
予想もしていなかったことに幸弥は面食らってしまった。
「何でいきなりそんなこと、何かの間違いじゃないの?」
「俺もそう思ったから確認してみたが、どうやらこの前の祝賀パーティでお前を見かけて気に入ったらしい、お前心当たりないのか?」
そう問われて、幸弥はあの傲慢で不遜ではあるが、眉目秀麗なあの男の顔が浮かび、はっとした。
ーー近い内に必ず迎えに行く。
(あの男はそんなようなことを確かに言っていた。まさか本社の副社長だったなんて)
「でも、いきなり花嫁なんて」
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