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確かに妊娠可能なオメガを花嫁と呼ぶこともままにあるが、オメガではあっても、男である自分が花嫁と呼ばれることに違和感を感じる。そんな、唐突過ぎる展開に幸弥の思考は混乱しっぱなしであった。
普段から自身無さげで、オドオドとしている節があるが、今は更に拍車をかけて狼狽している息子を見て父親は、極めて明るい口調で話しかけてきた。
「いや、良かったじゃないか。まさかお前がこんなお偉いさんに目を掛けてもらえるなんて。相手はアルファなんだから、オメガとして冥利につきるだろう」
狼狽している幸弥とは対照的に父親は上機嫌であった。それもそうであろう、今まで悩みの種でもあったオメガの息子がアルファの、しかも財閥の時期社長に見初められたのだ、将来安泰を約束されたようなものである。
「そういう訳だから、明日に副社長の自宅へ招待されたから行ってきてくれ。仕事は休みにしておいたし、ちゃんと迎えの車も出してくれるそうだ」
父親は息子の肩を二度ほど軽く叩き、満面の笑みを浮かべて「失礼のないように、しっかりやれよ」とだけ言ってしまうと、幸弥に仕事に戻るように促し、自身は再びデスクに戻り書類の整理を開始した。
幸弥は仕方なく事務所を出て、仕事場へと戻ることにしたが、事務所を出た途端に、あの男の顔を思い浮かべて深い溜め息をついた。
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