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偽りの運命の番
「父さん、どうやら俺は”運命の番”というものを見つけたみたいです」
桐生時政が、そう心にも無いことを言ったのは、単純に両親が勧めてきた見合いの相手のアルファ女達が、どれも気に入らなかったという理由だけだった。
しかし、運命の番を見つけたと言ってしまったからには、その相手を両親に紹介しなければならない。
そこで、その場しのぎの為だけに用意された”運命の番”が幸弥だった。
桐生家は、代々から受け継がれている生粋のアルファの家系であり、自動車産業で財を成した、近隣一帯に知らぬものが居ない程の財閥一家である。
時政は副社長として、そしてゆくゆくは社長になることを約束された立場として経営の一端を担っていた。
その桐生グループの末端になる、部品製造工場の工場長の末の息子が幸弥だった。
幸弥の両親は二人ともベータであり、上の兄と姉もベータであったが、幸弥だけはオメガであった。
それ故に、幸弥は家庭の中でも疎ましい存在として扱われていた。
オメガであるということは、それだけでリスクの高い存在だ。検診でオメガだと判り、絶望してしまうものも少なくない。
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