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自分の姿を確認する。
……ブラウスのボタンは全てはじけ飛んでいて、下着が丸見えだ。私は肩にかけられたスーツで胸に手繰り寄せて、それを隠す。それでも余るくらい、大きな背広だった。
私を抱いたまま、彼は大股で玄関に向かっていった。外に出ると夜中でも光っていると分かる黒塗りの車が停まっていた。運転手がすかさず後部座席のドアを開ける。
ふかふかのシートに私を置いたその人は、私の横に滑り込むように座った。
「行ってくれ」
「承知しました」
そのまま、車は、私が口を挟む間もないくらいの猛スピードで発進する。……後ろを見ると、家がどんどん小さくなっていった。
辿り着いたところは、映画のセットに出てきそうな立派な日本家屋だった。
「さあ、着きましたよ」
キラキラとした表情で、『彼』は私を見る。
「あの……、ここって」
「ああ、靴を持ってくるのを忘れてました……」
『彼』はもう一度、『お姫様抱っこ』で私を抱き上げる。
「ぎゃっ!」
「大丈夫ですか?」
「あの、大丈夫っていうか?」
事態が呑み込めていないのですが、という言葉をつなごうにも、キラキラした目で見つめられるとその言葉もぐっと押しとどまって出てこなくなる。
運転手だった男性が引き戸を開けると、ずいぶん綺麗な人が出迎えた。
「おかえりなさーい、うまくいきました?」
「……ああ、6,000万どぶに流した以外は、な」
「もー、しょうがないでしょ?『王子様』助けるためだったんだから」
私は玄関にゆっくりと下ろされ、『彼』は綺麗な女性に向かって声をかけた。
「ミキ、悪い。風呂と、彼女の着替えの用意を」
「もう準備出来てますわ。さ、こちらへどうぞ『王子様』」
『ミキ』と呼ばれた女の人に腕を引かれて、廊下を進んでいく。行きついた先は、浴室だった。
「お湯も取り換えてますから、ゆっくりしてくださいね。着替えも全部用意してますし……」
「……すいません、なんかよくわかってないんですけど……」
「うちの若様の、『王子様』ですからね。これくらいは当然です……また後で」
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