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ピシャっと浴室の引き戸が閉められた。
かごの中には、バスタオルと着替えの、ブラウスとスカートが入っている。どれも、明日香がよく読んでいる雑誌に紹介されていた、10代の女の子に人気のブランドのものだ。……ちょっとだけ憧れていたから、少しだけうれしい。
服の下には、隠すように下着も入っていた。しかし……
「……なんで、サイズぴったりなの?」
「あら、やっぱりお似合いですわ」
「……姫乃様はどんなものでもよくお似合いです」
「でも、少しスカートの裾が短いかもしれませんね」
「それはいけないな……。明日すぐ百貨店でサイズが合うものを購入するように、ついでに反物と帯も。姫乃様、何か好きな色やブランドなどはございますか?」
「ちょ、ちょっと待ってください」
お風呂から上がると、いわゆる大広間に通された。そこには、さっきの『ミキ』さんと私を助け出した『彼』が座っている。……しかし、畳の部屋が似合わない人なんて初めて見た。
「あの、あなたは一体誰なんですか?……どうして、私を助けてくれたんですか?」
「え……、まさか若様……名乗らずにつれてきたんですか?」
「あ、ああ…ははは、舞い上がってしまって忘れてしまいました」
「まったく、若と言ったら……」
ミキさんは額に手を当てて、あきれ返っている様子だ。そして、私に向き直る。
「大変失礼いたしました……私の名前は、橘龍哉と申します」
「橘組若頭であり、次期当主でいらっしゃいます」
「た、たちばなくみ?!」
「あら、ご存知でした?」
「そりゃ、そりゃもう……もちろん……」
橘組と言ったら、ここら辺一帯を〆ているヤ●ザのことだ。
どうやら、ヤ●ザが、大枚はたいて私を買ったらしい。
「本当に、若ってば説明不足にもほどがあります……」
「まったくでした…。大変失礼しました、『王子様』」
「その!」
事態についていけない私は、思いがけず声を荒げてしまった。飛び出した言葉を元に戻す方法を知らない私は、そのまま続けていく。
「……王子様って、何ですか?私、あなたにまで、『王子様』呼ばれる筋合いありません!」
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