615人が本棚に入れています
本棚に追加
『うーん、そうだね!でも、ひめのは、すてきだとおもう』
『素敵?』
『うん、ひめのもねぇ、このプリンセスみたいにかっこよくなりたい』
『かっこいい?』
『おに―さん』は、苦笑した。
ただあのころの私には、『おにーさん』の複雑な感情を上手く理解できなくて、『おにーさん』はただ嬉しくてなって笑ったんだって思った。
『うん、プリンスをたすけにいくかっこいいプリンセスになるの』
『……君は、もう立派なプリンセスだよ。絵本と同じのね』
『ん?』
絵本は、物語の終盤まで来た。
プリンセスはプリンスが閉じ込められているドラゴンの塔にたどり着き、ドラゴンに向かって『あなた、とても綺麗な瞳をしているのね』と言い放つ。その言葉に驚いたドラゴンは……
「あれ?」
絵本はそこで終わっていた。ページが一枚、取れたような跡がある。
「私がその絵本をもらった時から、ページが抜けでます。……だから、私も物語の終わりを知らないんですよ」
「……もやもやする」
私は本を閉じる。どうして、あの時の絵本が今ここにあるのか、そこまでは遡りきれなかった。
「しかし……私は、貴女に救われた。あの時の私は紛れもなく、塔に捕えられたプリンスでした」
グリーンの瞳が真っすぐ私を見据える。その目は、ヤ●ザとは思えないくらい優しいものだった。
「陽の光を浴びる貴女が、まるで宝石のようにキラキラ眩く見えました。……私は、貴女のこれからが豊かで眩いものであるように祈りをささげてきました。この11年間……」
「は、はあ……」
「貴女は、私の想像通り美しい女性に育った!それも、学校で「王子」ともてはやされるくらい、頼もしく!!」
「あの!……ちょ、ちょっと待ってください!」
次第に熱を帯びる若頭さんの一人語りを止める。
「……もしかして、考えたくないんですけど、もしかして今までずーっと私の事、み、見てました?」
まるで、『私の11年をずっと見ていました』とでも言いたげな独白だった。私の気のせいだと言ってほしかったが、若頭さんの言葉は、私をさらに後ずさりさせていく。
「ええ、もちろん」
頭をトンカチで殴られたような、もしくは冷たい湖に突き落とされたみたいな衝撃が私を襲う。
「……ただのストーカーじゃないですか!!!」
最初のコメントを投稿しよう!