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慌てて絵本一冊分、若頭さんから距離を取ると、若旦那さんは弁解を始める。
「別に、貴女にどうこうしようというわけではなかったんですよ!さすがに長く日本を離れたときは部下に任せましたし……見守ることさえできたら、それで良かった!あ の と き ま で は !」
「……あの時、というと。やっぱり……」
「ええ、貴女の父親の借金癖です。そこらへんの消費者金融ならまだしも、今回だけは事情が異なりました。……阿久津組というヤ●ザはご存知ですか?」
私はあいまいに頷く。テレビを見ていると、そこのヤ●ザが逮捕されたというニュースが流れてくることもあったから、あまり良くないところであるというのは察しが付く。
「あの二人の取り立て屋は、阿久津組の一員です。資金回収のためなら、なんだってする。……あなたのような若い女性がいるところは……特にいい話を聞かない」
寒気を感じて、身震いをした。あのヤ●ザ二人に襲われていたときに感じた恐怖が、再び体を包む。
「その時私は思ったんです」
これから先の言葉がちょっと怖くて、また一冊分遠ざかる。そんな私に気にもとめず、若頭さんは自身の胸に手を置いて、しみじみと言った。
「私が、プリンセスになって、貴女と言うプリンスを助けに行こう、と」
「でも…やっぱり悪いです、私なんかのためにあんな大金……」
「貴女のことを思えば、安いもんですよ!」
「……あのお金は、ちゃんと私が返します!だから……家に帰してもらうことはできませんか?」
「どうやって?」
……さっきまで優しかった若頭さんの声音が、ぐっと冷たくなった。顔をあげると、若旦那さんも、ミキさんも、運転手さんも……冷たい目で私を見る。
忘れていた、この人たちも『ヤ●ザ』だ。
「あのな、王子ちゃん」
運転手さんは私の近くでしゃがみ、頬を掴んで無理やり目を合わせるように顔を引き上げる。
「王子ちゃんみたいな若い女ができて、借金返せる仕事なんて……もう体売るしかねーんだよ。王子ちゃんが、それでも良いっていうなら紹介してやるけど……」
「風俗か……それが嫌なら、現役処女JK無修正ビデオとかかしら?」
「俺たちだって若が助けた女をそんなあくどい商売に沈めたくねーし……」
「でも……」
私の声が震える。
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