3 そろそろ、学校行きたいんですけど……

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「お嬢~、卵できた?」 「は、はい!」  この日を境に、このお屋敷にいる橘組の人たちは私のことを『お嬢』と呼ぶようになり……それがすっかり板についた頃。 「わ、わ、わ……!すごい!」 「ご満足いただけました、プリンス」  不本意ながら、お屋敷から廊下一本だけつながっている離れと呼ばれるところに、私の部屋が完成してしまった。  もともとクソ親父と暮らしていた家から、丸ごと私の部屋を持ってきたような……ベッドの場所から机の合ったところ、衣装ケースまでそのまま再現されている。 「うわぁー……」  すごいを通り越して、少し引いてしまうくらい。 「あと、部屋は一応鍵かけられるようにしてますけど……」  この『引っ越し』を担当していた仙道さんは、少しお疲れの様子だ。ポケットから鍵を取り出して、私に渡す。 「一応、予備を若に持ってもらいますから」 「え?なんで若頭さんに?!」 「ほら、中で何かあったときに開けられないと困りますし……」 「ミキさんでもいいじゃないですか!」 「あれ一応男だからな。……それに、お嬢の今の立場わかってます?」 「……時給5,000円の、婚約者です」 「そう……そういえば、まだ雇用契約結んでなかったですね、若」 「ミキに契約書作ってもらうように言っておくよ」 「そうっすね。じゃあ、そんなことであきらめてください、お嬢」 「はい……」 「安心してください、プリンス」  若頭さんは、少ししゃがんで私と目を合わせた。そして、優しく微笑みながら告げる。 「必要以上に、貴女の部屋に入ることは決してしませんので」 「本当ですか?」 「ええ」  そう言って、小指を出した。 「不安なら、指切りします?」  恐る恐る小指を差し出すと、すっと若頭さんはそれを絡めとる。そして、小さな声で「指切りげんまん」の歌をうたう。 「指切った……はい、コレで大丈夫です」 「はい……」  触れた小指が、少しだけ熱を持つ。  そりゃ、こんな顔だけはかっこいい人にそんなことをされたら……勘違いしない方がおかしい。照れている私と、ニコニコ笑う若頭さんを見て、仙道さんは呆れていた。  
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