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1 借金のカタって、私ですか?!
緑色の瞳に、私の驚いた表情が映り込んだ。目の前の『その人』は、私に手を伸ばし多と思ったら、そのまま背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめてきた。
「間に合って良かった……俺の『プリンス』」
なぜ、私がこんなことになっているのか。
話せば、ずいぶん長い話になる。
ひょいっと投げたボールは、バスケットゴールに吸い込まれていく。地面に付いてバウンドをしたとき、私は大きく腕を上げた。
「やったー!私の勝ち!」
後ろを振り返ると、クラスメイトの男子が汗を流しながら大きく息をしていた。
「宮原、強すぎ」
「そりゃもちろん、明日のお昼がかかってるからね!焼きそばパン、よろしくね」
「わかったよ……」
明日のお昼ご飯を賭けて、1on1の勝負を持ちかけられたが、私を相手にしたことがそもそもの間違い。お金が絡むとめっぽう強くなるのが、『貧乏人のサガ』だからだ。
私の名前は、宮原姫乃(ミヤハラ ヒメノ)。どこにでもいる、普通の女子高生だと自負している。少しばかり他の女の子より背が高くて、ちょっと男顔なもんだから男子より女子にモテる、女子高生。
中学生の時に文化祭でやった演劇で『王子様』の役をやって以来、あだ名は『王子』になっている。幼馴染の明日香から言わせてみれば、『はまり役』だったらしい。
ちょっと変わったところと言えば、ボンクラアホクサクソ親父こと実の父親の借金癖がひどく、家がびっくりするほど貧乏なことだ。
でもその生活も、父親の話によると、あと数日もしたら『終わり』らしい。
「姫、ご機嫌だね」
「だってだって、借金の返すアテがついたってお父さんが」
「本当に!良かったじゃん、もう安心したー」
明日香はベンチに座って、今までの試合を見ていた。はい、と私に水道水が入った水を渡す。私は「ありがとう」と受け取り、隣に座った。
「1円を崇めたたえる生活ともこれでおさらばよ……」
「でも?どうする?」
「ん?」
明日香はニヤッと笑う。
「姫乃が、『借金を返すアテ』だったら」
「ん?どういう事?」
「もう、察しが悪いんだから。だから、姫乃が売り飛ばされちゃったら、どうするー?」
「……まさか、例えクソ親父でもそこまではしないでしょ」
「そうだよね、姫乃のお父さん、そこまでの度胸ないし」
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