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「うん、そうそう」
顔を見合わせて笑っていると、予鈴が鳴った。明日香が短いスカートに付いた埃を払っていると、その視線はある一点に集中していた。
「げぇ~」
「何かあった?」
「あれ、見てよ」
明日香が指差す先には、『風紀委員』の腕章をつけた男の子が立っていた。
「ただの風紀委員じゃん、どうしてまたそんな蛙をつぶしたような声を…?」
「アイツ、滅茶苦茶厳しいの……スカート直しておこう」
腕章には青いラインが入ってる。あれは、1年生であることを示すマークだ。
「でも、1年じゃん」
「学年、上でも関係ないんだ。相手3年でもズバッと言うよ」
まじまじと彼を見ていると、こっちを向いた。目が合いそうだったので、慌てて顔を逸らした。それなのに、どこからか、痛いくらいの視線を感じる。
「姫乃?どしたの?」
「ううん、なんでもない。……明日香、行こう」
「うん」
風紀委員長が塞いでいる出入り口とは逆の方向にあるドアに向かう。校舎の中に入っても、視線はじわじわと体中に突き刺さっていた。
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「どうです、『若』。ひでーもんでしょ?」
黒塗りの車の中、運転手が声をかけた。
若、と呼ばれた青年は手に持っていた資料を丁寧に閉じ、隣に座るミニスカートが似合う人物に渡した。そして、彼は大きくため息をつく。
「……借金が6,000万円ね。一体、どうやって返すつもりなんだか」
運転手も、同じ資料を持っている。丁寧な調査をもとに作成されたそれは、ある家庭の『財布事情』をあらわしているようだ。
「あのかわいい子ちゃんに決まってるわ」
「……まったく、この世にはろくな父親がいねーのな」
「さて、いかがいたしましょうか、『若』」
「今ならギリギリ、お金の用意間に合いますわ。『若旦那様』?」
『若』は肩を落とすような大きなため息をつく。そして、告げるのだ。
「……用意を頼む」
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