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心の中で助けを求めた。……何に?
物語の中に出てくるような王子様なんて、どこにもいない。そばにいる父親は何の役にも立たない。
私は自分の運命を呪うしかなかった。
ギュッと目を閉じる。ハゲの気持ちわるい手が、お腹からねっとりと胸に上がってくる。その手が下着に指が触れた時、バンっと大きい音が聞こえて光が指した。
「誰や!」
「今いいとこなんや、邪魔すんなや!」
恐る恐る目を開ける。目の前には仕立てのいいスーツを着た人が立っている…。大きめのアタッシュケースを片手に、私たちを睨むように目線を下げていた。
……その目の色は、日本人からかけ離れた、エメラルドのように緑色をしている。
「大の男2人掛かりで、そんないたい気な女性に暴力とは情けない」
「うっさい、こいつはもう俺らが買うたんや」
「いくらで?」
「へ?」
「彼女の値段だよ…一体、いくらしたのかな?」
ハゲのヤクザは私から離れ、ちゃぶ台に置いたままだった借用書を、彼に見せつけた。クソ親父が6,000万も借金してやがったのは今日初めて知ったことである。
「……この程度で風俗に売るとは、お前らは彼女の価値を分かっていないようだ」
「は?」
「何言うとんのや……こんな小娘に…、頭大丈夫か?」
「……好きなだけ持って行くがいい」
そのスーツの人は、アタッシュケースを開く。その中には、帯で止められている大量の現金が敷き詰められていた。
「彼女を買うのは、この俺だ」
ドサッドサッと音を立てながら、札束が床に落ちていく。数えるのもおっくうになる量だ。
「ほら、好きなだけ持って行け。……そして二度と彼女の目の前に姿を現すな」
ハゲとガリガリのヤクザ二人は、もう一度お金を詰めなおしたアタッシュケースごと抱えて、逃げるように出ていく。
体が解放された私は、ぼんやりとあれは総額いくらしたんだろう?と考えていた。恐怖から解放された頭では、思考回路が上手く回らない。
クソ親父はへっぴり腰だったけれど、それでも私に近づいてくる。……しかし、それよりも先に、スーツの人がその上着を脱いで、私の肩にかけた。
「間に合ってよかった」
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