2 契約婚約、はじまります?

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 シン、と空気が静まり返る。  でも、そうだ。私のことを『王子様』と呼ぶのは学校の女の子達だけで……こんな、言うなれば『イケメン』に、『王子様』と呼ばれる言われはないはずだ。  しかし、彼は額に手を当て……さもショックであるという表情をするだけだった。 「まさか、覚えていないとは……?」 「は?な、なにが、ですか?」 「…私は、一度あなたに救われたことがあるんですよ。……プリンス」 「救う?私が、あなたを……?」  どれだけ記憶を掘り起こしても、全くこんなかっこいい人のこと、思い出すことはできなかった。首をかしげる私を見て、若頭さんの表情はさらに青ざめていく。  大広間のふすまが開く。さっきの運転手さんが、ずいぶん古ぼけた……あれは、絵本だろうか?……を持って入り込んできた。 「だと思ったよ。若とこのお嬢ちゃんが出会ったのなんて、もう何年前のことだと思ってるんですか。賭けは俺の勝ちな」 「んもー!仙道ちゃんロマンがない!」 「でも……」 「でも、じゃない。ほら、一から説明してあげてくださいよ」  ポン、と私と若頭さんの間に、ミキさんに『仙道』と呼ばれた運転手さんがポンと絵本を投げた。どこもかしこも陽に焼けて黄色くなっていて、カバーも何度もテープで直した跡がみられた。表紙には、『勇気のプリンセス』と書かれている。 「……なんですか、コレ?」  その絵本を手に取り、そのまま裏表紙を見た。そこには、汚い字で大きく『みやはら ひめの』と書いてあった。見まごうことなく、私の名前だ。 「覚えてますか?!」 「いや、全然」 「そうでしたか……」  若頭さんは、がっくりと肩を落とす。 ページは一枚一枚へばりついており、少しでも下手に力を入れると、背表紙から紙が取れてしまいそうだったので、ゆっくりと慎重にページをめくった。私の頭のてっぺんに、期待に満ちた視線が当たる。それがむしろプレッシャーだ、何も思い出せなかったら、意気消沈どころではすまないのではないだろうか。 物語のこうだった。
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