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第一章 つつむ
第一話「意も無視」
子供ができると、こんなに大変だったんだ。親の偉大さは折に触れ感じていた。想像するのは簡単、感謝するのも簡単。いざその立場になってみると、なんだよこれ。二十年ほど続くのか。おれを殺す気かよ。
こどもの頃のアルバムを広げて見ることはほとんどないが、結婚前に何かの流れで妻と一緒に開いた。写真の中の小さなおれは、まるで人間未満の肉の塊。芋虫みたいにベビーベッドに転がっていた。分厚いページをめくるごとに、少しずつ人間になり、妹ができ、七五三に入学式。家族旅行の写真もあった。皆幸せそうに笑っている。フイルムカメラで「はいチーズ」の条件反射もあるだろう。断片的な記憶を写真が補う。親の態度には大人の余裕が見え隠れしていた。バカみたいなおれの隣に、おすまし顔の妹が微笑んでいる。「男の子ってこうよね」と笑った妻は、妹と同い年だ。この時にはまだ一緒に笑えていた。
今、おれの前にも肉の塊がいる。もうすぐ人間になるだろうが、やはり太い芋虫だ。
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