第一章 つつむ

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 父がまともに働いて、母は言うなら良妻賢母。生活に困ったことはない。塾にも通ったが好きなサッカーはしていられた。中高六年間は母がお弁当を作ってくれた。悪ガキらしいところもあったがわんぱくという程度のこと、母が見かねた時に父から叱責を受け、その場は腹も立てたがすぐに忘れた。  絵に描いたような普通の、そこそこ豊かな家庭だ。想像するのは簡単、感謝するのも簡単。そんなことがおれにもできるのだろうか。なあ、どう思う? 肉の塊よ。  祝福された。結婚も、妻のおなかに命が宿ったことも。無事に生まれて皆が喜んだ。初孫の誕生に、母親は涙まで浮かべていた。  子供のいる友人も先輩も同僚も後輩も、口を揃えて言う。 「子供はかわいいですよ」  かわいいよ、待望の第一子。 「子供はかわいいですよ、大変だけど」  大変なんてもんじゃないよ。幼稚園なり保育園に入れば少しはマシなのか。憎らしいところが出てくるにせよ、数時間おきに授乳なんてことはなくなるもんな。女性にとって人生最悪の寝不足から解放されて、家庭内が少し落ち着くのかもしれない。想像だけど。肉の塊もこどもになれば、少しは言葉でも表現できる。今よりは負担が減って妻の不機嫌も少しは緩むだろう。と、願う。  こどもはかわいい。かわいいんだよ。おれの顔を見て笑ったりなんかすれば、目に入れても痛くないと思う。この比喩は大袈裟でもない。背中に羽が生えてるんじゃないかと言ったら、妻は「ばっかじゃないの?」と冷静だった。     
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