第一章 つつむ

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 こんなにかわいいのに、何かモヤモヤと曇りがある。気持ち悪いから取り除きたいが、モヤモヤしてよく見えなかった。封印した。よくわからないものに執着していては前に進めない。  稲塚貴一は三十歳になって、公私ともに充実していた。大学生の時にアルバイトをしていた制作会社に、卒業後、請われて入社、順調に昇進、マネージャーという立場になっていた。元々のポテンシャルが高いのだから仕方ない。  マネージャー。第二制作部のマネージャー、さしずめ部長といったところだ。印刷物の制作会社で横文字の職種名が多い。デザイナー、オペレーター、ディレクター。それに合わせたわけでもあるまいが、「長」で呼ばない社風を気に入っている。具体的な規模で言えば部下の数が百名に満たぬほど。正社員から契約社員、派遣やアルバイトまで全員を含めた数ではあるが。実質、正社員がチームごとにまとめている場合がほとんどで、直接面倒を見るのは主に正社員である。それでも普段から皆に声をかけ、顔色を気にしていた。チームリーダーの報告が常に正しいとは限らない。  仕事は楽しい、やりがいもある。この頃やけに疲れていて、何かモヤモヤと曇りがある。気持ち悪いから取り除きたいが、モヤモヤしてよく見えなかった。執着していては前に進めないので封印したのだ。公私ともに充実しているんだよ、おれは。     
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