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拝啓、母へ。
例の後輩が入社しました。もう、なんか色々と大変でした。勘弁して下さい、ということの連続でした。
まず、リムジンで来ました。あいつはリムジンでやってきました。白くて長い長い車です。すごく曲がるの大変そうでした。こんな町のコンビニにあんな豪華な感じのリムジンを停める神経がそもそも分かりません。リムジンから侵入社員、ああ、思わず書き間違えましたが、もう侵入といっていいほどのひどい登場だったので、侵入してきた新入社員とします。リムジンから降りてきた新入社員は、それはもうキラキラしていました。高そうな靴、高そうなスーツ、高そうなもので全身をかためており、もう、見た目からして金持ちオーラ満載だったのです。すらーっと背が高く、まあモテたんだろうなと。一目見てそう思いました。
なぜ、コンビニで働こうと思ったのか。このキラキラ金持ちが。コンビニの店内にはレキシの『きらきら武士』が流れていましたが、私は思わず目をそらしキラキラ無視してしまいました。それほど、一目見た時から嫌なオーラを感じたのです。
あのコンビニに入る時のてろれろーという音と共に、入ってきたキラキラ金持ちの第一声がこちら。
「ここが俺の職場か。狭いな。よろしく」
これです。「俺の職場」呼ばわりです。狭いとはよく言ってくれたものです。うちのコンビニは、どちらかといえばちょっと広いほうですから。しかも何がむかついたかって、この人、予定の時間より30分遅刻してるんです。遅刻を詫びる感じもなく「よろしく」と上から目線でやってきました。ああ、こんな人とうまくやっていける自信がありません。でも、文句ばかり言えませんので、私は挨拶をします。社会に出て培ったご自慢の作り笑顔とはきはきした声で。
「はじめまして!私は六堂絵といいます。絵と書いて『カイ』です。よろしくお願いします!」
このお決まりのフレーズをこれまで何回言ったことでしょう。もう慣れてきました。しかし、今回の相手の反応は、それはもう新鮮なものだったのです。
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