メイドと王子

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メイドと王子

幼い頃、母に手を引かれて行った、街で一番大きなホール。そこではたくさんの紳士淑女が集まり、煌びやかな舞踏会が開かれていた。キラキラの七色ドレス達、ピカピカに磨かれた銀器、芳しい香りを放つ彩り豊かなドリンク、優雅に奏でられる舞踏曲に誰もが寄り添い裾を揺らしていた。そこで目にしたどの景色も、幼い私には想像もし得なかった夢の世界だった。 あの世界はきっともう一生味わうことはないと、幼い私も思っていた。ただ思い出すのはあの時の母の優しさと幸福に満ちた笑顔と、もう1人の小さな手─── 小さな手─────? ──────────── ───────── 「おはようございます。ご朝食の用意ができました」 三回ノックの後、私は仕える主の部屋に入った。当の主はまだ広いベッドに体を沈ませて寝息を立てている。そっと近寄って寝顔を覗き見る。 相変わらず端正な顔。眠っている時はいい男なのに── 心の中でボヤきながら、ベッド横のカーテンを引き始める。すでに日は登り、バルコニーに繋がる窓を少し開けると爽やかな春の風が優しく髪を揺らした。 「キース様、朝です」 「んんっ……」     
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