舞踏会と記憶と未来と

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バランスを崩した私の肩をぐいっと引いて支えてくれたのはぶつかった相手。はっとして見上げたが、その雰囲気は探していた人とは別人だった。 「すみません。余所見をしていました」 「いえ。お怪我はありませんか?」 そう覗き込まれた時、優雅な調べが流れ始めた。周囲で談笑していた人達は相手を見つけて腕を取り合っていた。すると目の前のマスク越しに瞳が薄められた。 「…踊っていただけますか?」 「え……」 そんなの困る、だって私は踊れないのに。それでも目の前の彼は促すように手を差し出してくる。この方に恥をかかせるわけには、そう思いゆっくりと手を重ねた── 重ねたと思った手は、横から伸びて来た別の白い手袋によって攫われた。 「え?」 私と目の前の彼はその手の先に視線を移した。見上げた先には、黒に金の縁取りをしたマスク越しにこちらを見下ろすルビーの瞳があった。目が合った瞬間、ドキリと体が跳ねた。それは見紛うことなき焦がれた赤。ずっと探し続けた人。 「申し訳ありません。私が先約ですので」 すっと視線を彼にやり、感情のない声音で一言断りを入れると間髪入れず私の手を引いて行く。私はまだ何も言えないまま、手を引く彼の背中を見つめていた。     
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