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そして私は今、望み通りの人生を手に入れた。だからハサミは引き出しの奥にしまったまま、もう何年も使っていない。
「おはよう、パパ」
「おはよう、お姫様」
そう言って、背の高い背広姿が小さな娘を抱き上げた。
「ダメよ、もうパパは会社に行く時間だからね」
私が娘に声をかけると、
「まあ、いいじゃないか」
と彼が言う。毎朝の微笑ましい風景だ。彼が娘を降ろして頭を撫でると、娘は嬉しそうにぱたぱたと私のところまで歩いてきて、またぱたぱたと隣の部屋に歩いて行った。今日も朝から元気だ。
私も安心して冷蔵庫を開けたところ、後ろの方で彼の呟きが聞こえた。
「こんなところにほつれが……ハサミ、ハサミ……」
ガタッ。
「あったあった。ん? なんだこの長い糸……」
ちょっきん。
突然、変な音が聞こえて振り向いた。
そこには、見知らぬ男が立っていた。
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